インサイドセールスとは、訪問せずに電話・メール・オンライン商談で見込み客との接点を育て、商談化までを担う内勤営業です。立ち上げの具体手順は、①目的と対象商材を決める ②役割範囲と成果地点を決める ③ターゲットリストを絞る ④初回トークをA4一枚で作る ⑤担当者を決める ⑥記録の置き場所を決める ⑦固定枠で回して週1で振り返る——の7ステップに整理できます。専任を置けない中小企業でも、兼任1人・スプレッドシート1枚・週3.5時間から始められます。本記事では、この7ステップを0〜90日の進め方に落とし、担当者のアサイン判断、フィールドセールスへの引き渡し基準、ツール移行の目安までを、当社の営業支援の実数とあわせて着手順に並べます。
結論|立ち上げは7ステップ。最初の30日は「絞る・話す・記録する」だけでいい
インサイドセールスの立ち上げは、7つのステップを上から順に片づければ形になります。多くの解説が「KPI設計」「人材採用」「SFA導入」を序盤に置きますが、専任を置けない会社がその順で進めると、設定と教育に時間を取られて肝心の接触がいつまでも始まりません。先に決めるのは、当てる相手と話す内容、そして記録の置き場所です。人とツールは、回り始めてから足します。
| 順 | やること | 所要目安 | 完了の判断基準 |
|---|---|---|---|
| 1 | 目的と対象商材を1つに決める | 1時間 | 「どの商材で、何を増やすのか」が1文で書けている |
| 2 | 役割範囲と成果地点を決める | 1〜2時間 | 「何をもって商談とするか」が文書になっている |
| 3 | ターゲットリストを絞って用意する | 半日〜1日 | 1社ごとに「なぜ今この会社か」が書ける |
| 4 | 初回トークスクリプトをA4一枚で作る | 1〜2時間 | 名乗り・質問1つ・次の日程提案の3点が入っている |
| 5 | 担当者を決める(兼任/異動/採用/外部委託) | 2〜3日 | 名前と、確保する時間枠が決まっている |
| 6 | 記録の置き場所を1か所に決める | 1時間 | 本人以外が見ても次アクションが分かる |
| 7 | 固定枠で回し、週1で振り返る | 週3.5時間(継続) | 2週続けて固定枠がゼロの日を作っていない |
この90日で受注を判定材料にしないのは、受注が遅行指標で、商材によって出るまでの時間が大きく違うためです。以降では、前提となる「そもそも何をする役割か」を整理したうえで、7ステップを1つずつ具体化していきます。
インサイドセールスとは|テレアポ・フィールドセールスとの違い
インサイドセールスとテレアポ・フィールドセールスの違いは、担う工程と評価指標にあります。テレアポは1回の架電でアポを取ることを目的に架電数で測られ、フィールドセールスは商談から受注までを担って受注率で測られます。インサイドセールスはその中間で、複数回の接点を重ねて商談化までを担い、有効接触数と商談化率で測られる役割です。立ち上げ前にこの線引きを社内で共有しておかないと、「電話をかける係」として扱われ、追客が評価されない体制になりがちです。
| 観点 | テレアポ | インサイドセールス | フィールドセールス |
|---|---|---|---|
| 主な目的 | その場でアポイントを取る | 関係を育てて商談化につなげる | 提案し、受注まで運ぶ |
| 接点の回数 | 単発が中心 | 複数回の追客が前提 | 商談単位で継続 |
| 主な指標 | 架電数・アポ数 | 有効接触数・商談化率 | 受注数・受注率・単価 |
| 記録の使い方 | 結果の集計が中心 | 次アクションと状況を残して育てる | 提案内容と決裁の進み方を残す |
| 向いている場面 | 今すぐ客を素早く拾う | 検討中の層を取りこぼさず育てる | 条件詰めと意思決定を進める |
テレアポとの違いは「1回で決めるか、複数回で育てるか」
どちらが優れているという話ではなく、狙う顧客の検討フェーズで使い分けるものです。今すぐ導入したい層が多い商材ならテレアポ的な進め方も効きますが、比較検討に時間がかかる商材ほど、接点を切らさず育てる型が効いてきます。断られた相手を「終わり」にせず追客リストに残せるかどうかが、両者を分ける実務上の分岐点です。なお、そもそも電話がつながらない場合の対処はテレアポがつながらないときの改善手順で扱っています。
非対面で商談を作る前提は、買い手側から整いつつある
インサイドセールスは一部の先進企業だけのものではありません。HubSpot Japan「日本の営業に関する意識・実態調査2022」(2021年12月3〜5日実施、売り手1,545名・買い手515名の計2,060名)によると、2021年12月時点の国内インサイドセールス導入率は40.4%で、そのうち35.6%は直近1年以内に導入した企業です。同調査では、訪問営業とリモート営業の「どちらでもよい」と答えた買い手が38.4%と前回調査の約1.5倍に増えています。さらに同社の2026年調査では、購買検討時に生成AIを活用したことがある買い手は36.7%にのぼります。買い手の情報収集が非対面へ移っている以上、訪問だけに頼らず商談を作る仕組みは、会社の規模を問わず標準装備になりつつあります。
SDRとBDR、どちらから立ち上げるか(反響型と新規開拓型の選び分け)
反響が月に数件でもあるならSDR(反響型)から、ほぼゼロならBDR(新規開拓型)から立ち上げます。両方を同時に始めないのが原則です。設計するものが違うため、同時に走らせると片方が中途半端になります。
| 観点 | SDR(反響型) | BDR(新規開拓型) |
|---|---|---|
| 活動の起点 | 問い合わせ・資料請求・セミナー参加などの反響 | 自社で作ったターゲットリスト |
| 相手の状態 | すでに何らかの関心を示している | まだ自社を知らない・関心がない |
| 立ち上げ時に設計するもの | 対応スピードの基準・商談の引き渡しルール | ターゲットの絞り込みと初回トークのシナリオ |
| 立ち上げ初週にやること | たまっている未対応の反響を古い順に全件当たる | 既存顧客の共通点から対象を30〜50社に絞る |
| 成果が見え始める早さ | 早い(関心が既にあるため) | 遅い(接点づくりから始まるため) |
SDRから始める会社|勝負を分けるのは内容より「速さ」
手元に反響があるなら、まずそこを固めるのが定石です。すでに関心を示した相手のほうが商談化しやすく、少ない工数で成果につながります。そして反響対応で最も効くのは、トークの上手さよりも速さです。マーケティングオートメーションを提供するシャノン社が自社のインサイドセールス運用データとして公開している数値では、リードの登録から1時間以内に架電した場合の応答率は88.9%、翌日には65.9%まで下がるとされています(第三者調査ではなく同社の運用実績値)。反響対応の速さが成果を左右するという論点自体は、Harvard Business Reviewに掲載されたOldroydらの調査(2011年3月)を原典として、以降さまざまな媒体で取り上げられてきたものです。兼任で即時対応が難しい場合も、「反響の一次対応だけは当日中、遅くとも翌営業日の午前まで」という基準を1行決めるだけで取りこぼしは減ります。
BDRから始める会社|1週目は件数ではなく「当てる相手」を決める
反響がほとんど発生していない場合は、BDR型で小さく始めます。このとき1週目にやるのは架電件数を積むことではありません。既存顧客の共通点(業種・従業員規模・導入のきっかけ)を洗い出し、その条件に合う企業を30〜50社だけ書き出すことです。1週目の目的は、想定していた課題が相手の言葉で返ってくるかを確かめることにあります。なお中小企業の実務では両者を厳密に分ける必要はなく、1人の担当者が「反響対応を最優先し、残った時間で新規リストに当たる」という優先順位で兼ねる形が現実的です。
立ち上げ前に決める3つ(目的・役割範囲・ターゲット)
着手前に言語化するのは、目的・役割範囲・ターゲットの3つです。ここが曖昧なまま走ると、活動が「とりあえず電話している」状態になり、忙しいのに商談が増えない事態に陥ります。逆に言えば、この3つが決まっていれば担当者が1人でも回り始めます。
①目的|「どの商材で、何を増やすのか」を1文で書く
目的が「営業を強化する」では設計に落ちません。「主力のA商材で、月◯件の初回商談を安定して作る」のように、対象商材と増やしたい数を1文にします。商材を複数にすると、トークもリストも分散して検証ができなくなります。立ち上げ期は1商材に絞ってください。
②役割範囲|商談化までに絞り、受注は背負わせない
どこからどこまで担うかを決めます。立ち上げ期は「商談化まで」に絞り、受注はフィールドセールス(訪問・クロージング担当)に渡すのが回しやすい形です(図2)。1人二役で受注まで背負わせると、目先の商談対応が優先されて追客が後回しになり、せっかく作ったリストが放置されます。
③ターゲット|「業種×規模×役職×想定課題」を1文にする
誰に当てるかを、業種・企業規模・役職・想定課題のかけ算で1文にまとめます。たとえば「首都圏の従業員10〜50名の設備工事会社の経営者・工事部長で、職人の採用難に困っている層」のように書けば、リストに入れる・入れないの判定基準と、トークで確認する課題の仮説が同時に決まります。この1文が書けない状態は、まだ絞り込みが足りていないサインです。広げるのは、勝ちパターンが見えてからで十分です。
【具体手順】インサイドセールス立ち上げの7ステップ
ここからが実際の手順です。7つのステップは、上から順に着手すれば前のステップの成果物が次の入力になるように並べてあります。準備が完璧になるのを待つ必要はありません。ステップ1〜4は合わせて2日ほどで終わる作業量です。小さく回しながら整えていきます。
ステップ1|目的と対象商材を1つに決める(1時間)
立ち上げの起点は、対象商材を1つに絞ることです。やること:「どの商材で、何を増やすのか」を1文で書きます。「主力のA商材で、月◯件の初回商談を作る」という形です。
つまずきポイント:複数商材を同時に載せること。商材が増えるとトークもリストも分散し、反応が悪かったときに原因を特定できなくなります。売上構成比が最も大きい商材か、既存顧客の課題がはっきりしている商材のどちらかを1つ選んでください。
ステップ2|役割範囲と成果地点を決める(1〜2時間)
このステップの仕事は、範囲を商談化までに絞り、その成果地点を文書に落とすことです。やること:担当範囲を「商談化まで」に絞り、その成果地点=「何をもって商談とするか」を文書に書きます。この定義は後述する引き渡し基準そのものなので、ここで暫定版を作り、運用しながら精度を上げます。成果地点の初期値は、SDRから始めるかBDRから始めるかで変えてください。SDRは相手がすでに関心を示しているため「検討時期・予算感・決裁の流れのいずれかを確認できている」まで求めてよく、BDRは接点づくりから始まるぶん、まずは「課題を自分の言葉で話している」に緩めておくと、渡す側と受け取る側の期待がそろいます。
つまずきポイント:定義を口頭合意で済ませること。書いていないと、渡す側と受け取る側で認識がずれ、「あのアポは質が低い」という不信に育ちます。1文でいいので必ず文字にしてください。
ステップ3|ターゲットリストを絞って100件用意する(半日〜1日)
リストは数を追う前に、まず刺さる100件に絞ります。やること:ステップ1で決めたターゲット条件に合う企業を、まず100件ほど書き出します。数を追う前に「刺さる層」を定義するのが目的です。既存顧客の共通点(業種・従業員規模・導入のきっかけ)を洗い出すと、絞り込みの精度が上がります。
つまずきポイント:広げすぎて「誰にでも当てはまる」リストになること。1社ごとに「なぜ今この会社か」を一言書けるかどうかが基準です。反応が薄いときは件数を増やす前に、まず絞り込みを疑ってください。
この点は当社の営業支援でも実数で確かめています。2026年6月に送った初回スカウトは5名合計で約794通、返信率は全体で13.5%でしたが、送信量が約2倍だった人でも返ってきた数はほぼ同じでした(当社の営業支援における実数。数値は概数)。反応を決めていたのは送信量ではなく、当てる相手と初回に渡す「次に進む理由」の設計です。絞り込み条件の作り方はインサイドセールスのリスト作成|優先順位づけと架電前の絞り込み条件で、静的属性・課題の発生条件・決裁構造・タイミングの4層に分けて解説しています。
ステップ4|初回トークスクリプトをA4一枚で作る(1〜2時間)
初回トークはA4一枚で足ります。作り込むより、回しながら直す前提で用意します。やること:初回接触の目的を「売り込む」ではなく「次の接点をもらう」に置き、A4一枚分の話す流れを作ります。相手の課題を確認する質問を1つ入れておくと、会話が続きます。
例文(骨子):「突然のお電話失礼いたします。◯◯(自社名)の△△と申します。□□業界の会社さまの新規開拓のご支援をしておりまして、本日は情報提供のご案内でご連絡しました。——ちなみに御社では、新規のお客様の獲得は今どのような方法で取り組まれていますか?」→(相手の状況をひと通り聞いたうえで)「ありがとうございます。それでしたら、同業の他社さまの取り組み事例を15分ほどでご紹介できます。来週の前半と後半ですと、どちらがご都合よろしいでしょうか。」
入れる要素は3つだけです。①名乗りと用件を短く言い切る、②相手が答えやすい質問を1つだけ置く、③締めは「次の接点の日程」に限定する。つまずきポイント:説明が長くなり、相手が話す余地がなくなること。伝えることより、相手の状況を引き出すことを優先します。商談本番で使う流れの作り方は訪問営業のトークスクリプトの作り方で扱っています。
ステップ5|担当者を決める(兼任・異動・採用・外部委託の判断)
担当者を決めるとは、名前と時間枠をセットで押さえることです。やること:誰がやるかを名前で決め、確保する時間枠まで押さえます。ここを曖昧にしたまま「手が空いた人がやる」にすると、必ず立ち消えます。選択肢は兼任・社内異動・新規採用・外部委託の4つで、判断軸は「反響の量」「社内に営業経験者がいるか」「いつまでに商談が必要か」の3点です。
| 選択肢 | 向いている状況 | 立ち上がりの速さ | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 兼任(既存営業・内勤) | 反響が月数件〜十数件。まず型を検証したい | 即日 | 繁忙期に固定枠が消える。時間帯の固定が必須 |
| 社内異動(専任化) | 商材知識が要る/既存顧客対応の経験者がいる | 数週間 | 元の業務が引き継がれず、実質兼任になりがち |
| 新規採用 | 商談を継続的に必要とする段階に入っている | 数ヶ月 | 教える型がない状態で採ると、育成が属人化する |
| 外部委託(営業代行) | 社内に営業経験者がいない/期限が決まっている | 契約後すぐ | 丸投げすると型が社内に残らない |
上位の解説記事では「初期3〜5名の専任チーム」を推す例も見かけますが、専任を置けない会社が無理に人数を揃える必要はありません。先に人を増やすのではなく、兼任1人で型を作ってから増やすほうが、教える材料がある分だけ立ち上がりが安定します。専任化を検討する目安は、固定枠30分では追客が追いつかなくなり、対応待ちのリードが常時たまり始めたときです。つまずきポイント:「誰か手の空いた人」で始めること。名前と時間枠がセットで決まっていない体制は、2週間で自然消滅します。
ステップ6|記録の置き場所を1か所に決める(1時間)
記録は、高機能なツールであることより1か所にまとまっていることが先です。やること:リスト・対応履歴・次アクション・次回予定日を、1枚のスプレッドシートにまとめます。列は「会社名/担当者/最終接触日/状況/次アクション/次回予定日」の6つで十分です。誰が見ても状況が分かる状態にするのが目的です。
つまずきポイント:ツールを先に選んで満足すること。高機能なツールより、毎回埋まる記録の型が先です。移行の目安は後述します。
ステップ7|固定枠で回し、週1で振り返る(週3.5時間)
続ける仕組みは、毎日同じ時間帯の固定枠と、週1回の振り返りの2つだけです。やること:「1日30分・架電10件」のように無理なく続く量を決め、毎日同じ時間帯に固定枠(あらかじめ予定表に確保しておく作業時間)として押さえます。週に1回、商談化につながったトークとリストを見返し、反応の良かったパターンに寄せていきます。
つまずきポイント:忙しい日に飛ばして、そのまま自然消滅すること。量を落としてでも「毎日ゼロにしない」ことを優先します。もうひとつは、一度に多くを変えて何が効いたか分からなくなること。変更は1回につき1要素に絞ります。
あわせて、電話がつながらなかった相手には架電直後に用件だけの短いメールを残しておくと、次回の架電で「先日メールをお送りした者ですが」と切り出せて、会話につながる率が上がります。電話とメールを別々の施策と考えず、1回の接触のセットとして扱うのがコツです。
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