決裁者にアポが取れない、会えないという状態は、粘りや人脈が足りないからではなく、決裁者に届く経路を案件ごとに決めていないことで起きます。経路が決まっていないと、営業は「担当者にもう一度お願いする」以外の手を持てず、案件は担当者の社内事情しだいで止まってしまいます。

この記事で分かること

  • 担当者止まりになる4つの原因と、自社の案件がどれに当てはまるかの見分け方
  • 決裁者に届く4つの経路(担当者経由・直接接触・紹介・対面)と、状況に応じた選び方
  • 担当者に渡す1枚資料の中身と、訪問で決裁者に会うための事前接点のつくり方

決裁者に渡す提案書の構成そのものは決裁者の3つの論点に答える提案書の作り方で扱います。

決裁者に会えない・アポが取れないとは|提案が営業のいない場所で判断される状態

決裁者に会えない状態とは、投資の可否を決める人と直接の接点が持てず、提案が担当者経由の伝言で判断されている状態です。担当者に提案を渡した時点で、その先の社内説明は担当者の言葉と資料に委ねられます。商談でどれだけ丁寧に話しても、決裁の場にはその一部しか届きません。

社内の承認には時間もかかります。ワークフローシステムを提供するエイトレッドが、従業員100名以上の会社で過去半年以内に3回以上稟議を起案した109名に聞いた「稟議書」に関する実態調査(2022年3月)では、申請から承認までの平均日数が「1日未満」という回答は4.6%にとどまり、約半数が「3日以上」と答えています。稟議の申請フローに悩んだことがある86名に悩みの内容を聞くと、最も多かったのは「承認までに時間がかかる」(60.5%)でした。

担当者に渡した提案は、営業が補足できないまま、数日かけて社内を回ることが珍しくありません。「検討します」のまま連絡が途絶える案件の中には、断られたのではなく、社内を回る途中で止まっているものも含まれます。このあと整理する原因と経路は、その止まっている場所を見つけるためのものです。

担当者止まりになる4つの原因と見分け方

担当者止まりの原因は、①提案の論点が担当者向けに閉じている、②決裁構造を聞けていない、③担当者に上申する動機がない、④決裁者が遠い相手ばかりを狙っている、の4つに整理できます。原因によって最初に打つ手が変わるため、まず自社の案件がどれに当てはまるかを見分けてください。

原因 出ている症状 見分け方(担当者に聞く/自問する) 最初の打ち手
① 論点が担当者向け 機能や運用の話で盛り上がるが、費用の話になると止まる 提案資料に費用回収の見通しとリスクへの対処が書いてあるか 費用・効果・リスクを1枚に足す
② 決裁構造が不明 「上に確認します」の先が誰なのか答えられない 最終承認者の役職・人数・稟議の有無を言えるか 商談の初期に決裁の流れを質問する
③ 上申の動機がない 感触は良いのに社内で話が進んだ形跡がない 担当者自身の仕事がこれで楽になると伝わっているか そのまま転送できる1枚資料を渡す
④ 相手選定のずれ どの案件でも同じ場所で止まる 狙う企業規模で、決裁者は誰にあたるか 決裁者までの距離に合わせてリストと設計を見直す

出典: 編集部作成。原因の分け方は考え方の整理で、特定の調査の数値に基づくものではありません。

見落とされやすいのが④です。①〜③は目の前の案件の直し方ですが、どの案件でも同じ場所で止まるなら、原因は個別の商談ではなくリストの側にあります。この場合、トークや資料をいくら磨いても状況は変わりにくくなります。案件単位ではなく工程単位で詰まりを切り分ける方法は商談数が増えない原因を4工程で特定する方法にまとめています。

④を疑うときに見直すこと

④を疑うときは、狙っている企業の規模と、その規模で誰が投資を決めているかを並べて見直します。社員の少ない会社では社長や役員が窓口を兼ねていることがあり、最初に話した人がその場で判断できる場合もあります。反対に、部署が分かれた大きな会社では、担当者から部門長、役員へと承認の段階を踏むのが通常の流れです。どちらが良いということではなく、狙う企業規模によって決裁者までの距離が変わり、必要な設計も変わります。決裁者が近い層を狙うなら直接届く経路を、稟議を前提とする層を狙うなら上申の設計を、というように組み立てを変えてください。

決裁者に届く4つの経路と選び方

経路の選び方は、①狙う相手の決裁構造、②担当者とすでに関係があるか、③単価と検討期間、の3点で決まります。手法を増やすこと自体が目的ではないため、この3点を確かめてから、案件ごとに主に使う経路を1つに絞ります。

決裁者に届く4つの到達経路と、それぞれが向く状況の対応図 担当者経由の上申・直接接触・紹介・対面の4経路について、向く状況と選択基準を並べた対応図。 決裁者に届く4つの到達経路/状況で選ぶ ① 担当者経由 上申してもらう (既存商談の主軸) ② 直接接触 電話・フォーム・手紙 (新規の初期接点) ③ 紹介 既存顧客・提携先 (最短だが数が出ない) ④ 対面・催し 訪問・展示会・会合 (高単価・信頼重視) 選ぶ基準(上から順に確認する) 1. 狙う相手の決裁構造は? → 決裁者=担当者なら、そもそも到達の問題は起きない 2. すでに担当者と関係があるか? → ある=①が基本/ない=②③から入る 3. 単価と検討期間は? → 高単価・長期検討ほど③④の価値が上がる よくある失敗:経路を選ばず、①だけを何度もお願いし続ける
図1: 決裁者に届く4つの到達経路と選択基準。経路は状況で決まり、どれか1つが常に正解ということはありません。

① 担当者経由の上申

すでに商談が進んでいる案件の基本形です。関係を壊さずに進められる一方、承認の速さは相手の社内事情に左右されます。この経路を選ぶなら、次の節で扱う1枚資料で、担当者が上司に説明する手間を減らすことが中心になります。

② 直接接触(電話・手紙・フォーム・メール)

まだ担当者との関係が始まっていない新規開拓で、最初の接点をつくる経路です。代表電話から役職者につないでもらう、役職者宛てに手紙を送る、問い合わせ窓口から連絡するといった方法があります。一方で、担当者と商談が進んでいる案件で頭越しに使うと、担当者の立場を損ねて案件ごと失うことがあります。

メールで直接連絡する場合は、特定電子メール法のルールに注意が必要です。広告・宣伝のメールは原則として事前に同意した相手などにしか送れず、ウェブサイトなどで自らメールアドレスを公表している事業者は例外とされています。ただし、アドレスと併せて広告メールの受信を拒否する旨を表示している場合は、例外に当たりません。問い合わせフォームからの営業文の送信がこの法律上どう扱われるかについては、総務省・消費者庁の公式見解は見つかっていません。

電話で受付から先に進めない場合は、経路よりもリストや時間帯に原因があることもあります。切り分け方はテレアポが繋がらない3つの原因で扱っています。

③ 紹介

既存顧客や提携先から決裁者を紹介してもらう経路は、紹介者の信頼を引き継げるぶん、短い道のりで決裁者に届きます。ただし、出せる数が相手の人間関係に左右されるため、これだけで新規開拓の計画は立てられません。

④ 対面・催し(訪問・展示会・会合)

単価が高く、信頼の積み重ねが判断を左右する商材ほど効く経路です。移動や準備に時間がかかるぶん、1件ごとの接点は深くなります。訪問をどう組み立てるかは、後の「訪問で決裁者に会う設計」で詳しく扱います。

担当者を上申の味方に変える1枚資料

担当者は上申したくないのではなく、自分の手間を増やしたくないと考えていることが多いものです。だから渡すべきものは依頼ではなく、そのまま上司に転送できる1枚資料です。「社長に会わせてください」は担当者にとって仕事が増える依頼ですが、「これを転送すれば説明が済みます」は仕事が減る提案になります。目的は同じでも、担当者から見た意味が大きく違います。

1枚に載せるのは、現状の課題(相手が商談で話した言葉で書く)、打ち手、費用、想定される効果、相手側の作業量の5点です。最後の「相手側の作業量」は抜けやすい項目ですが、導入後に自社の手間がどれだけ増えるかは、決裁する立場の人ほど気にします。

買い手側の調査も、この方向を裏付けています。HubSpot Japanの「日本の営業に関する意識・実態調査2026」(2025年10月実施、売り手1,545名・買い手515名)では、買い手の81.2%が営業担当者だからこそ提供できる価値に期待していると回答し、その価値の上位に「個別事情を汲んだ提案」が挙がりました。一般的な会社案内ではなく、その会社の事情に沿って書かれた1枚であることが条件です。

稟議の実態調査の数値と、担当者に渡す1枚資料に載せる5項目 左は稟議の実態調査(従業員100名以上の会社の起案者109名。申請から承認まで1日未満は4.6%、悩みがある86名の悩み1位は承認までに時間がかかる60.5%)。右は1枚資料に載せる5項目。 提案は「営業がいない場所」で判断される 稟議の実態(従業員100名以上の会社) 出典: エイトレッド「稟議書」に関する実態調査(2022年) 悩みがある86名の1位「承認までに時間がかかる」 60.5% 起案者109名のうち、承認まで「1日未満」 4.6% 約半数は、承認までに3日以上かかると回答 そのまま転送できる1枚に載せる5項目 1. 現状課題(相手が話した言葉で) 2. 打ち手(何をするのか) 3. 費用 4. 想定効果 5. 相手側の作業量 ← 抜けやすい 渡し方:「会わせてください」ではなく 「説明の手間を減らす材料です」と渡す
図2: 稟議の実態と、担当者に渡す1枚資料の中身。上申は「依頼」ではなく「手間の肩代わり」として設計します。

渡すときに添えるひと言

資料を渡すときは「上の方にご説明いただく際の手間を減らすための材料です」と添えます。あわせて「ご説明の場で質問が出たら、私から補足してもよいでしょうか」と、次の接点について担当者の了解をもらっておきます。担当者の了解を得たうえで決裁者と話す機会をつくれば、頭越しの連絡にはなりません。提案書全体の組み立て方は受注に近づく提案書の作り方で詳しく扱っています。

訪問で決裁者に会う設計|事前接点をつくってから会いに行く

訪問で決裁者に会うには、いきなり訪ねるのではなく、会う相手を決め、電話やDMで事前に接点をつくり、会える商談にしてから訪問する順番が有効です。訪問は移動に時間を使うぶん、決裁者に会えなかったときの損失が大きくなります。訪問の前の段階で、決裁者への道筋をつけておきます。

訪問が決裁者との接点として効く場面

訪問が決裁者との接点として効くのは、単価が高く、検討期間が長く、相手との信頼が判断を左右する商材です。対面の場を設けること自体が相手に時間を確保してもらう理由になり、決裁者の反応をその場で確かめられます。反対に、単価が低い商材や、その場で判断が完結する商材では、移動時間のぶん接触できる社数が減り、費用に見合わないことがあります。どんな商材で対面が効くかは訪問営業が有効な商材の特徴で扱っています。

会える商談にするまでの3つの段取り

  1. 決裁構造で訪問先を絞る:業種・規模・エリアに加えて、誰が投資を決める会社かで訪問の優先度を付けます。決裁者が窓口を兼ねやすい層なのか、稟議を前提に上申を組み立てる層なのかで、訪問で果たす目的が変わります。
  2. 電話やDMで事前接点をつくる:訪問の前に電話や手紙・DMで用件を伝え、誰と、何のために会うのかを決めてから日程を取ります。担当者との面談になる場合は、決裁者に同席してもらえるか、同席が難しければ次にどんな材料があれば上申できるかを、事前に担当者と相談しておきます。
  3. 訪問中に次の一手を合意する:その場で決裁者の関心事を確かめ、次に渡す材料と次回の日程を決めてから退出します。

訪問先を条件で点数づけして絞る方法は会うべき企業を6条件で絞る訪問営業リストの作り方、準備から次回の合意までの一連の流れは訪問営業の進め方を7ステップで整理した記事にまとめています。

当社の訪問営業支援の進め方と公開事例

当社(LongWave)の訪問営業支援では、業種・規模・エリア・決裁構造で訪問優先度の高い企業を抽出し、電話やDMで事前接点をつくって会える商談にしてから訪問します。訪問トークを標準化し、訪問結果を週次で分析して、アポ率・商談率・受注率の改善につなげます。

サービスページで公開している事例には、次のものがあります(記載の内容・数値は対象期間や条件により異なります)。

  • レンガ建材メーカーの支援では、大手ハウスメーカーや元請けへの販路を立て直すため、テレアポと訪問を組み合わせ、稼働初月から有力な元請けとの接点を創出しました。
  • 高校採用を強化したい上場企業の支援では、全国の高校を訪問し、進路指導の担当者との接点を継続的に構築しました。
  • 家賃保証サービスを提供する企業の支援では、全国の不動産会社を対象にテレアポで新規開拓を代行し、月35件以上の商談獲得を継続し、アポからの受注率40%以上を維持しました。

また、当社の営業支援では、2026年4〜6月の3か月に初回商談115件、6月だけで57件を創出しました(支援先全体の合計・自社集計で、1社あたりの成果ではありません)。

決裁構造を1枚に書き出す3ステップ

いま止まっている案件の抜け道は、①最終承認者を特定する、②承認までの手順と期間を書く、③足りない判断材料を1つ選ぶ、の3ステップで見つけられます。新しいツールは要りません。進行中の案件を3件選んで書き出してください。

  1. 最終承認者を特定する:役職・人数・関与する部署を書きます。分からない場合は「分からない」と書きます。それ自体が原因②の発見になります。
  2. 承認までの手順と期間を書く:稟議の有無、通す順番、過去に似た投資が決まるまでにかかった期間を担当者に確認します。
  3. 足りない判断材料を1つ選ぶ:費用・効果・リスク・相手側の作業量のうち、まだ渡せていないものを1つ選び、次の接触でそれだけを渡します。

3件書き出すと、詰まりが案件ごとに違うのか、全件で同じなのかが見えてきます。全件で同じ場所で止まっているなら、直すのは商談ではなくリストです。担当者止まりより手前の、初回の接触から商談に進みにくい段階で止まっている場合は、商談化率を上げる初回アプローチの設計で「次に進む理由」の渡し方を確認してください。

まとめ

決裁者にアポが取れない、会えないという悩みは、決裁者に届く経路を案件ごとに決めることで打ち手が見えてきます。要点は次の4つです。

  • 担当者止まりの原因は、論点・決裁構造・上申の動機・相手選定の4つです。どの案件でも同じ場所で止まるなら、リストを見直します。
  • 経路は担当者経由・直接接触・紹介・対面の4つから、決裁構造、担当者との関係、単価と検討期間で選びます。
  • 担当者には「会わせてください」と頼むのではなく、そのまま転送できる1枚資料を渡します。
  • 訪問で決裁者に会うなら、決裁構造で訪問先を絞り、電話やDMで事前接点をつくってから会いに行きます。

まずは進行中の案件を3件選び、決裁構造を書き出すところから始めてください。

よくある質問(FAQ)

決裁者にアポを取る方法は?
決裁者にアポを取る方法は、担当者経由で上申してもらう、電話や手紙で直接連絡する、既存顧客や提携先から紹介してもらう、訪問や展示会など対面の場を使う、の4つに分けられます。すでに担当者と商談が進んでいるなら担当者経由を基本にし、関係がまだない新規開拓なら直接接触や紹介から入ります。単価が高く検討期間が長い商材ほど、紹介や対面の価値が上がります。どの方法でも、会う前に相手の決裁構造と、決裁者が気にする費用・効果・作業量を整理しておくことが前提になります。
担当者の頭越しに決裁者へ連絡してもよいですか?
すでに担当者と商談が進んでいる案件で、担当者に断りなく決裁者へ連絡するのは避けたほうが安全です。担当者の立場を損ね、案件そのものを失うことがあります。決裁者と話したいときは、担当者が上司に説明しやすい1枚資料を渡したうえで、「ご説明の場で質問が出たら補足させてください」と同席や補足の了解をもらう形にします。一方、まだ担当者との関係がない新規開拓では、役職者宛ての手紙や電話で最初から決裁者に連絡する方法もあります。
中小企業と大企業で、決裁者への届き方は違いますか?
違いが出やすいです。社員の少ない会社では社長や役員が窓口を兼ねていることがあり、最初に話した相手がそのまま判断できる場合もあります。その場合は、決裁者に直接届く連絡手段と、その場で判断できる材料をそろえることが中心になります。部署が分かれた大きな会社では、担当者から部門長、役員へと承認の段階を踏むことが多く、エイトレッドの調査(従業員100名以上の会社で稟議を起案した109名が対象)では約半数が承認まで3日以上かかると回答しています。こうした相手には、担当者経由の上申を前提に1枚資料を設計します。

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